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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)160号 判決 1999年5月25日

控訴人兼附帯被控訴人

中村洋介

被控訴人兼附帯控訴人(原告)

深江聡

主文

一  本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は控訴人に対し、別紙交通事故目録記載の交通事故による損害賠償金として、金三三四万三七九五円及びこれに対する平成五年七月二五日から完済まで年五分の割合による金員を超える債務を負担していないことを確認する。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、一審及び二審、控訴及び附帯控訴を通じてこれを二分して、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  本件控訴について

1  控訴人

(一) 原判決を次のとおり変更する。

(二) 被控訴人は控訴人に対し、別紙交通事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という)による損害賠償金として、金七七八万五五〇〇円及びこれに対する平成五年七月二五日から完済まで年五分の割合による金員を超える債務を負担していないことを確認する。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

二  本件附帯控訴について

1  被控訴人

(一) 原判決を次のとおり変更する。

(二) 被控訴人は控訴人に対し、本件交通事故による損害賠償金として、金二一六万一四八二円及びこれに対する平成五年七月二五日から完済まで年五分の割合による金員を超える債務を負担していないことを確認する。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

2  控訴人

(一) 本件附帯控訴を棄却する。

(二) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

一  原判決の引用、補正

1  当事者双方の主張は、次の二、三のとおり付加する外は、原判決の事案の概要(三頁三行目から一〇頁末行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  ただし、次のとおり補正する。

(一) 原判決三頁九行目の「一三の一ないし二〇、」の次に「甲一〇、甲三〇、甲三一、乙三、」を加える。

(二) 同四頁末行目文末の次に「控訴人は、平成五年八月初旬頃から、右耳の痛みと難聴を訴えるようになった。」を加える。

(三) 同六頁七行目の「平成六年五月二七日」から同八行目の「症状固定した」までを「平成六年五月二七日症状固定した」と改める。

(四) 同七頁三行目から五行目までを次のとおり改める。

「(四) 休業損害 四一七万五〇〇〇円

入院期間約二か月分と通院期間のうち八か月分の合計一〇か月分。」

二  控訴人の主張

1  休業損害

控訴人は、本件事故のため、平成五年七月二五日(本件事故日)から平成六年一二月二六日(株式会社ラビットサプライを解雇された日)まで一七か月間欠勤し、収入がなかった。控訴人は、本件事故当時、月額平均四一万七五〇〇円の給与を支給されていた。

したがって、控訴人は、四一万七五〇〇円に一七か月分を乗じた七〇九万七五〇〇円の休業損害(給与不支給分)が発生している。ところが、原判決は、四一万七五〇〇円に一一か月分を乗じた四五九万二五〇〇円の休業損害(給与不支給分)しか認めておらず、不当である。

2  解雇による慰藉料(当審新主張)

控訴人は、本件事故により耳と足を負傷し、長期にわたりラビット社を欠勤したため、同社を解雇されてしまった。控訴人は、その後株式会社近畿精機製作所に勤務しているが、ラビット社よりも年収が一五〇万円も減少した。

そこで、控訴人は、被控訴人に対し、ラビット社解雇による慰藉料として、右減収額の二年分である三〇〇万円の支払を求める。

三  被控訴人の主張

1  過失相殺

本件事故現場は交差点になっており、本道と側道との間にある分離帯が約二〇メートルにわたって切れている部分である。したがって、控訴人は、側道から本道に進入してくる自動車が存在することを予見し、前方の安全を確認する義務があった。

そして、被控訴人は、本道に進入しようとしてから一七メートルほども進行しており、その速度も低速であったことからすると、控訴人が前方を注視しておれば、本件事故を回避することは可能であった。

ところが、控訴人はこれを怠り、本線上を漫然と進行して、ブレーキをかけたりハンドルを切るなどの回避措置をとらなかったため、本件事故が発生した。本件事故の発生については、控訴人にも一割の過失がある。

2  休業損害

控訴人は、平成六年一月に足の症状が固定し、平成六年五月(本件事故後一〇か月後)には耳の症状も固定している。控訴人は、平成六年五月以降も足の治療(リハビリ)を受けているが、そのためにラビット社での勤務ができなかったのではない。本件事故と相当因果関係のある休業期間は、入院期間二か月と通院期間のうち八か月の合計一〇か月である。

3  解雇による慰藉料

控訴人の難聴と本件事故との間には、相当因果関係を欠く。そして、足の傷害については、遅くとも平成六年五月頃には就労が可能となっていた。したがって、控訴人は、本件事故により難聴となり、ラビット社を長期間休業したことにより解雇されたとはいえない。

理由

第一判断の大要

当裁判所は、大要次のとおり判断する。

1  控訴人運転の自動二輪車と被控訴人運転の普通乗用自動車が本件交差点で衝突して、本件交通事故が発生した。控訴人は、本件事故により、右膝外側副靭帯挫傷、仙骨骨折、全身打撲、右側頭部外傷、右耳癒着性中耳炎等の傷害を負った。

2  本件事故の発生について控訴人に過失は認められず、本件事故は被控訴人の一方的過失によるものである。被控訴人は、控訴人が本件事故により被った損害について、控訴人に対し、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償金支払義務を負う。

3  控訴人は、本件事故前から右耳癒着性中耳炎の持病があったが、その症状が現れていなかったのに、本件事故による衝撃を受けて右症状が発現したものである。そこで、控訴人の休業損害については、一〇か月分の休業損害の七割弱である三七〇万円の限度で、被控訴人に損害賠償責任があるものと認める。

4  控訴人が当審で新たに主張したラビット社解雇による慰藉料は認められない。被控訴人に損害賠償責任のある控訴人の損害額は、総額一一三五万五一二九円である。被控訴人は現在までに八〇一万一三三四円を支払っているので、残額三三四万三七九五円の支払義務がある。

第二前提事実

本件事故の発生、被控訴人の責任、控訴人が負った傷害と入通院の状況、症状固定については、原判決三頁八行目から六頁八行目(ただし前示補正後のもの)記載のとおりであるから、これを引用する。

第三控訴人の損害

一  治療費、通院交通費、入院雑費、入通院慰藉料、物損、諸雑費

控訴人は、本件事故により、治療費一六五万五九八一円、通院交通費四万一一五〇円、入院雑費九万一〇〇〇円、入通院慰藉料二〇〇万円、物損一〇万円、装具、眼鏡などの諸雑費一一万四四九八円の損害を被ったことが認められる。

その理由は、原判決一一頁三行目から一二頁八行目まで、同一七頁六、七行目、同二〇頁七行目から二二頁一行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

二  休業損害等

1  判断

当裁判所は、被控訴人に損害賠償責任がある休業損害等は、次の(二)(三)の合計四九五万二五〇〇円と判断する。

(一) 本件事故による休業期間は一〇か月間、その間の休業損害は、給与不支給による損害分四一七万五〇〇〇円と、賞与不支給による損害分一一二万七五〇〇円、以上合計五三〇万二五〇〇円である。

(二) 控訴人には本件事故前から右耳癒着性中耳炎の持病があり、本件事故が引き金となって右持病が顕在、悪化し、その治療が長期化した。そのため、控訴人の休業期間が一〇か月と長引いた。そこで、前示休業損害五三〇万二五〇〇円中、被控訴人に損害賠償責任がある部分は、その約七割である三七〇万円と認める。

(三) 再就職先が決まるまでの間得られなかった収入、次の勤務先が決まってからの減収分の損害は、一二五万二五〇〇円と認める。

2  原判決の引用

(一) 右1の判断の理由は、次の3ないし5のとおり附加する外は、原判決一二頁一〇行目から同一七頁五行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(二) ただし、次のとおり補正する。

(1) 原判決一四頁二、三行目の「本件事故による長期休暇のため」を「本件事故後全く出勤しなかったため」と改める。

(2) 同頁八行目から同一五頁七行目までを次のとおり改める。

「(二) 本件事故による休業期間は一〇か月間、その間の給与不支給による損害分は四一七万五〇〇〇円、賞与不支給による損害分は一一二万七五〇〇円、被控訴人に損害賠償責任があるのは、その合計五三〇万二五〇〇円の約七割である三七〇万円と認めるのが相当である。」

(3) 同頁一〇、一一行目の「本件事故による欠勤」を「本件事故を契機とした欠勤」と改める。

(4) 同一七頁五行目を「(四) 以上によると、被控訴人に損害賠償責任がある休業損害等は、前示(二)(三)の合計四九五万二五〇〇円である。」と改める。

3  本件事故と右耳癒着性中耳炎との因果関係

(一) 事実の認定

証拠(甲三〇、甲三一、乙三、乙四、乙七、控訴人本人〔原審及び当審〕)、及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 控訴人は、平成五年七月二五日本件事故に遭い、右側頭部外傷の傷害を負った。控訴人は、本件事故前から、右耳椎体骨部に変性所見が見られ(甲三〇)、自覚症状はなかったが、右耳癒着性中耳炎に罹患していた(控訴人〔当審〕本人調書七項)。

(2) 控訴人は、本件事故直後は耳の異常がなく、耳鳴りや耳が聞こえにくいといった症状もなかった(控訴人〔原審〕本人調書一五項)。ところが、控訴人は、平成五年八月初旬頃、右耳痛、耳鳴りに気づき、同年八月二三日、近所の若杉耳鼻咽喉科を受診した。そして、同医院医師の紹介により、同年八月二五日、住友病院耳鼻咽喉科を受診した。控訴人は、同病院で、右鼓膜陥凹・癒着、右難聴が認められ、右耳癒着性中耳炎と診断された(甲一〇、乙三)。

(3) 控訴人は、住友病院耳鼻咽喉科で、平成五年一一月一六日、平成六年四月五日の二回にわたり、右鼓室形成術(右耳の手術)を受けた。その結果、鼓膜所見が改善し、鼓膜は乾燥安定を見たが、右聴力は改善しなかった。控訴人は、平成六年五月三一日、住友病院耳鼻咽喉科の津田守医師によって症状固定と診断された(甲一〇、乙三)。

(4) 控訴人は、津田医師から、本件事故前から右耳癒着性中耳炎に罹患しており、本件事故(右側頭部外傷)の衝撃で既存症が悪化し、手術をしなければならなくなったと説明された(控訴人〔当審〕本人調書七項)。

(5) 控訴人は、現在も軽度の難聴である。しかし、その程度は軽く、日常会話には殆ど支障がない。当裁判所と控訴人との当審法廷での会話でも支障がなく、控訴人の聴力は、外部の者からは健常者と何ら変わりがない。

(二) 検討

前認定(一)の事実によると、控訴人は、本件事故前から右耳癒着性中耳炎の持病があったが、その症状が現われていなかったのに、本件事故による衝撃を受けて、右症状が発現したものと認められる。

したがって、本件は、被害者に対する加害行為と、加害行為前から存在した被害者の疾患とがともに原因となって損害が発生した場合に該当し、本件事故と控訴人の右耳癒着性中耳炎による入通院治療、手術、右耳痛、耳鳴り、難聴との間には、一応、相当因果関係が認められる。

被控訴人自身も、訴状では、本件事故と右耳癒着性中耳炎の傷害、本件事故と住友病院耳鼻咽喉科での入通院治療との間の相当因果関係を認めていた(訴状の請求原因一(二)、同三(一)3、同三(二)3、同三(四)参照)。

しかし、当該疾患の態様、程度などに照らし、被控訴人に損害の全額を賠償させるのが公平を失するから、当裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の規定を類推適用して、控訴人に本件事故前から右耳癒着性中耳炎の持病があったことを斟酌し、賠償額を減額することにする(最判平成四・六・二五日民集四六巻四号四〇〇頁)。

4  本件事故と相当因果関係のある休業期間

(一) 本件事故の発生、入通院状況、勤務状況等

前示補正した原判決の引用により認定したとおり、本件事故の発生、入通院状況、勤務状況等は、次のとおりである。

(1) 本件事故の発生 平成五年七月二五日。

(2) 入通院状況

イ 大野記念病院

平成五年七月二五日から二六日まで二日間入院。

ロ 徳州会野崎病院(外科)

(イ) 平成五年七月二六日から同年八月一一日まで一七日間入院。

(ロ) 平成五年八月一二日から平成七年一月九日まで通院(実通院日数二〇二日間)。

ハ 若杉耳鼻咽喉科

平成五年八月二三日から同年一一月九日まで通院(実通院日数一五日)。

ニ 住友病院耳鼻咽喉科

(イ) 平成五年一一月一二日から同年一二月六日まで(第一回)、平成六年四月一日から同年四月二六日まで(第二回)入院。

(ロ) 平成五年八月二五日から平成六年五月二七日まで通院(実通院日数七二日)。

(3) 勤務状況

控訴人は、本件事故後、勤務先(ラビット社)には全く出勤しなかった。そのため、ラビット社は、平成六年一二月二六日付で控訴人を解雇した。

(二) 傷害の内容、その治療状況

証拠(甲三ないし一三〔枝番を含む〕、甲三〇、乙二の1、2、乙三、控訴人本人〔原審及び当審、一部〕)、及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 控訴人は、本件事故により、右膝外側側副靭帯損傷、仙骨骨折、全身打撲・擦過傷、頸部捻挫、右側頭部外傷、右耳癒着性中耳炎の傷害を負った。

(2) 控訴人は、平成五年八月一一日徳州会野崎病院(外科)退院後、足のリハビリ治療を開始しているが、平成六年一、二月当時、既に足の傷害は事実上症状が固定していた。その後は、温湿布等の経過観察的なごく簡単な治療を受けていたにすぎない。

(3) 右側頭部外傷、右耳癒着性中耳炎は、平成六年五月二七日症状固定した。控訴人は同日以降耳の治療を受けていない。控訴人は軽度の難聴が残ったが、その程度は軽く、日常会話には殆ど支障がない。

(4) 控訴人は、平成六年五月二七日以降も、徳州会野崎病院外科で足の治療(リハビリ)を受けているが、時々足が痛い日がある程度であり、労働に支障があったわけではない。

(三) 検討

前認定(一)(二)の入通院状況、傷害の内容、その治療状況等によると、控訴人は、右側頭部外傷、右耳癒着性中耳炎の症状が固定した平成六年五月二七日以降は、就労が可能であったことが認められる。

したがって、本件事故と相当因果関係のある休業期間は、平成五年七月二五日(本件事故日)から平成六年五月二七日までの一〇か月間と認める。

5  休業損害額

(一) 前示原判決の引用により認定したとおり、控訴人は、本件事故前、ラビット社から月額四一万七五〇〇円の給与を得ていた。休業期間一〇か月分の給与不支給額は四一七万五〇〇〇円となる。休業期間一〇か月間(平成五年七月二五日から平成六年五月二七日まで)に対応する賞与不支給分は、平成五年冬季賞与、平成六年夏季賞与で、その合計は一一二万七五〇〇円である。したがって、右給与不支給分と賞与不支給分の合計は五三〇万二五〇〇円となる。

(二) ところで、控訴人の休業期間が一〇か月と長引いたのは、控訴人には本件事故前から右耳癒着性中耳炎の持病があり、本件事故の衝撃を受けて右持病が発現し、その治療に長期間を要したためである。被控訴人に対し、右一〇か月分の休業損害の全額を賠償させるのは公平を失すると認められる。そこで、当裁判所は、民法七二二条二項の規定を類推適用して、前示一〇か月分の休業損害五三〇万二五〇〇円の七割弱である三七〇万円の限度で、被控訴人に損害賠償責任があるものと判断する。

三  後遺障害慰藉料

1  前示二3の認定判断によると、本件事故と控訴人の難聴との間には、一応、相当因果関係を認めることができる。控訴人は、現在も軽度の難聴であるが、その程度は軽く、日常会話には殆ど支障がない。控訴人は、本件事故前から右耳癒着性中耳炎の持病があり、その症状が現われていなかったのに、本件事故の衝撃で右症状が発現したものに過ぎない。

2  前示二1、2で原判決の引用により説示したとおり、既に控訴人に対し、控訴人の再就職先が決まるまでの間得られなかった収入、近畿精機製作所に勤務するようになってからの減収分の損害として、一二五万二五〇〇円を認容している。したがって、これには、実質的にみると、控訴人の後遺障害(軽度の難聴)による逸失利益喪失の損害も含まれている。

3  以上の諸点を総合し、控訴人の後遺障害慰藉料を二四〇万円と認める。

四  解雇による慰藉料(当審新主張)

1  控訴人の主張

控訴人は、当審において、新たに次のとおり主張している。

(一) 控訴人は、本件事故により耳と足を負傷し、長期にわたりラビット社を欠勤したため、同社を解雇されてしまった。

(二) 控訴人は、その後近畿精機製作所に勤務しているが、ラビット社よりも年収が一五〇万円も減少した。

(三) そこで、控訴人は、被控訴人に対し、ラビット社解雇による慰藉料として、右減収額の二年分である三〇〇万円の支払を求める。

2  検討

(一) 当裁判所は、前示のとおり、既に控訴人の次の各損害を認容している。

(1) 控訴人がラビット社を解雇されてから再就職先が決まるまでの間得られなかった収入、近畿精機製作所に勤務するようになってからの減収分の損害として一二五万二五〇〇円(前示二1(三)、同2)。

(2) 控訴人の後遺障害慰藉料として二四〇万円(前示三1)。

(二) 控訴人は、本件事故(平成五年七月二五日)後、ラビット社には全く出勤しなかったため、ラビット社は、平成六年一二月二六日付で控訴人を解雇している。しかし、控訴人は、耳の症状が固定した平成六年五月二七日以降は、就労が可能であったのに、同日以降もラビット社に出勤していない(前示二4)。

確かに、控訴人が平成六年五月二七日までラビット社を欠勤したことについては、本件事故による足及び耳の傷害、特に耳の傷害によるものと認めることができる(前示二4)。しかし、控訴人には本件事故前から耳の傷害(右耳癒着性中耳炎)の持病があり、本件事故の衝撃により右症状が発現したものに過ぎない。

(三) 控訴人には、前示(一)のとおり、既に三六五万二五〇〇円の損害賠償請求が認められている。控訴人のラビット社解雇による財産的損害は十分填補されており、この他に、ラビット社の解雇自体による精神的損害を認めるべき特別の事情が認められず、慰藉料請求権は認められない。

五  合計額

以上によると、被控訴人に損害賠償責任のある控訴人の損害額は、前示一(治療費等)の合計四〇〇万二六二九円、前示二1(二)(三)(休業損害等)の合計四九五万二五〇〇円、前示三(後遺障害慰藉料)の二四〇万円、以上の総額一一三五万五一二九円である。

第四過失相殺

一  判断の大要、原判決の引用

当裁判所も、本件事故については、被控訴人に全面的な過失があり、控訴人側には過失がないと判断する。その理由は、次の二、三のとおり附加する外は、原判決二二頁四行目から二四頁二行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

二  事実の認定

証拠(甲二、甲三二、甲三三、甲三四〔一部〕、三五の1、2、控訴人本人〔原審及び当審〕、被控訴人本人〔一部〕)によると、次の事実が認められる。

1  被控訴人は、普通乗用自動車を運転して、本線(築港深江線)南側の側道を西進し、別紙見取図<1>でハンドルを右に切って、本線内の交差点に進入して行った。その際、被控訴人は、進路である本線右後方の安全を十分確認せずに、本線内の交差点に進入して行ったため、本線内の進路右後方から、控訴人運転の自動二輪車が直進して接近してきているのに全く気付かなかった。

そのため、被控訴人は、約一七メートル進入した別紙見取図<2>近くで初めて、自車右前部後方にまで接近してきている控訴人車を発見した。被控訴人は、右時点で初めて危険を感じ、直ちにブレーキをかけたが、発見とほぼ同時に別紙見取図<ア>の控訴人車の左前部と衝突した。

2  他方、控訴人は、時速五〇ないし六〇キロメートルの速度で自動二輪車を運転し、本線(築港深江線)の左から二番目の車線を西進して、青信号に従い、本件交差点へと進入して行った。すると、左側の側道とを区分している分離帯の先端から、ハンドルを右に切り、本線内の交差点に割り込むように進入してきた被控訴人車を発見した。しかし、控訴人は、右発見とほぼ同時に、回避のいとまもなく、自車(別紙見取図<ア>)左前部を被控訴人車(同<2>)右前部に衝突させることになった。

3  ところで、本線と側道とは、等間隔に設置された鉄柱に固定された鉄棒を備えた幅の広い分離帯によって明確に区分され、かつ、本線と側道を区分する道路標示が交差点内にまで延びている。右分離帯の本件交差点寄りには、巨大な高架道路柱が設置されている(別紙見取図、甲三二参照)。本線の最高速度は時速六〇キロメートルであり、控訴人はその制限速度内である時速五〇ないし六〇キロメートル(秒速約一六メートル)で、本線を東から西に向かって進行していた。

三  検討

1  控訴人は、自動二輪車を運転して、本線(築港深江線)を制限速度内で西進し、本線の交差点を青信号に従い直進していたのに、被控訴人は、普通乗用自動車を運転して、進路である本線右後方の安全を十分確認せずに、控訴人車の前方に割り込むようにして本線内の交差点に進入して行き、本件事故を引き起こしたのである。

2  本線と側道とを区分する分離帯の交差点寄りには、巨大な高架道路柱が設置されている。そのため、本線上を走行していた控訴人車からは、別紙見取図<1>の被控訴人車は、その陰になって発見が困難であった。その後、被控訴人車が分離帯の先端から本線内の交差点に割り込むように進入してきた。控訴人は、一秒間に約一六メートルの速度で、本線上を西進して本件交差点に向かっていたため、被控訴人車発見とほぼ同時に、回避のいとまもなく、自車(別紙見取図<ア>)左前部を被控訴人車(同<2>)右前部に衝突させてしまった。

3  本件事故は、被控訴人がその進路となる本線右後方の安全を十分確認せずに、直進する控訴人車の進路前方に当たる本線内の交差点に、割り込むように進入して行ったために発生したものである。その結果、控訴人は、被控訴人車を発見した直後に、回避のいとまもなく同車と衝突しており、本件事故の発生を未然に防止することはできなかった。したがって、本件事故の発生について控訴人に過失は認められず、本件事故は被控訴人の一方的過失によるものである。

第五損害の填補

証拠(甲二七の1ないし14)及び弁論の全趣旨によると、被控訴人(ないしは被控訴人の加入する住友海上火災保険株式会社)が控訴人に対し、本件事故の損害賠償金として、現在までに八〇一万一三三四円を支払っていることが認められる。

第六結論

一  以上によると、被控訴人は控訴人に対し、本件事故による損害賠償金として、現時点で、次の1、2の金員の支払義務がある。

1  損害賠償金残額 三三四万三七九五円

これは、損害賠償金合計一一三五万五一二九円(前示第三の五)から既払額八〇一万一三三四円(前示第五)を控除した残額である。

2  右1の損害賠償金残額に対する平成五年七月二五日(本件事故発生の日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

二  したがって、本件債務不存在確認請求は、前示一認定の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却すべきである。

三  よって、本件控訴に基づきこれと異なる原判決を主文一項のとおり変更し、本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川義春 小田耕治 紙浦健二)

交通事故目録

(一) 日時 平成五年七月二五日午後〇時一五分ころ(天候晴れ)

(二) 場所 大阪市西区阿波座一丁目一番一〇号

(三) 加害車両 普通乗用自動車(京都五二む五三一七)

運転者 被控訴人

(四) 被害車両 自動二輪車(一大阪か九九一九)

運転者 控訴人

(五) 事故態様 被控訴人は、右方向に指示器を出しながら南側側道を西進し、西本町交差点で本線中央に進路変更したが、本線中央を西進中の被害車両に衝突し、被害車両は転倒した。

交通事故現場見取図

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